ある住宅セールスマンの告白(その2)


僕の仕事は住宅の営業マン。会社は1兆円企業とも呼ばれる、業界1.2の大手メーカー。大学も六大学を卒業し、人に胸を張れる社会人生活を想像していたが、入社5年も過ぎると“何か違う。”そんな思いがひしひし感じてくる。

朝は8時に出社し、1時間の勉強会。決まって新商品の内容確認だ。僕が入社してからの5年間で、一体いくつの商品(住宅)が発表され、廃番になったことか。廃番住宅のカタログは山積みされ、期末には粗大ゴミと化する。カタログ表紙の“永遠のプレステッジ”のロゴが、やけに痛々しい。カタログが処分されると同時に、その家を建てたお客様の顔が脳裏をかすめ、思わず目をつむる。そして、葬り去られる。

展示場は5年のサイクルで建替えられる。まるで車のモデルチェンジと変わらない。そんな住宅を、永遠のデザインと称し、文化の象徴とごとく説明し、販売してきた。最近、そんな仕事に嫌気がさしてきた。

学生時代の就職活動。僕は明るい未来を確信し、都心の一等地にあるこの会社を選んだ。学生の頃よく観たトレンディドラマの主人公のように、足早に都会を歩き、商談をすすめていく自分の姿がそこにあった。アフターファイブは、キュートな彼女と過ごす僕のリラクゼーションタイム。そんな事が届かぬ夢と気が付くには、時間はかからなかった。

配属通知の、埼玉県草加市は初めて聞く地名だった。入社初日、先輩の同行で建築予定地の下見に行く。そこはコンクリートジャングルならぬ雑木林。あたりは畑だ。おろしたてのリーガルの皮底靴で砂利道を歩く姿は、僕の予定にはなかった。僕は大きな過ちに気づいた。トレンディドラマの主人公は、商社マンやアパレル業やマスコミ業で、住宅の営業マンなど一人もいなかったのだ。

そんな僕でも、この5年間それなりの仕事をしてきた。累積契約棟数は50棟。年10棟の割合だ。先輩が言うには、この時代かなりの成績だそうだ。

お客様のほとんどは、公務員やサラリーマン。たまに医者や大企業の役員がいても、彼らはエセ上流階級。最初は皆、100点満点の住宅を希望していても、大手メーカーという勘違いの信頼性に目を奪われ、70点で満足できる人達だ。たまに本物を見抜くお客様と打ち合せをすると、雰囲気がイメージにそぐわないという理由で、商談は進まない。
僕らのお客様は、自分を中流以上と気取る人達だ。
真の上流を生きる人たちは、興味で住宅メーカーを覗いてみても、決して我々に頼まない。そんな彼らが最後に到達するのが、設計事務所だ。それも、かなりセンスのある。

今年で僕も30才。自分の人生を見直す時期が来たかもしれない。月末となると、頭を下げながら値引をちらつかせ、契約を迫る。毎年やる事は、何一つ変わらない。
学んだ事は、かけ引きのテクニックと、粘りの根性だ。
とは言え、僕にとってはこれが最高の武器、どんな業界でもきっと通用するはずだ。
さあ、新しい未来へはばたくぞ!!キュートな彼女が待つ新しい世界へ!