黒塗りの渋い民家

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心象風景として記憶される、「昭和」の空間をめざした家

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時空の流れは今、とてつもなく速く留まるところを知らない。いっぽう戦後の昭和は、荒廃の中にあっても夢と希望が満ち溢れていたよい時代であった。緩やかに時間が流れていた。急いだところでその先には何もないから急ぐ必要もなかったし、急ぐ人間もたまにはいたが、まばらであった。「その先には何もない」ということは逆説的には、あるいは進歩史観的にはすばらしいことである、との見方を持っていないと,昭和と呼吸できないかもしれない。昭和は過ぎ去ったのではなく、心の中に明確に記憶されているのである。われわれは進歩などせずただ展開しているだけである、と思いつつしっとりとした、やや重たい空間を考えることにした。重たい空間であるから、軽くてはならないわけだ。すぐ飽きてしまうと思われそうな軽い空間や、色仕掛けで迫るポップなデザインはひとまず横に置き、黒や茶などの濃密な深い色合いで塗装された木部が、生成りの壁からちりばめられた光線により映し出され、その陰影と呼吸しつつ、数多は変化すれども、われ変化せずの感覚を体で感じながら、よりいっそう重たさに貢献している有様の表現をめざすことにした。それはオグシオが、あるいは世界ランク1位の中国人ペアを破ったスエマエが、相手の動きを睨みつつコートの片隅に打ち放すわずか5グラムほどの羽根ではけしてなく、かといって、室伏がその渾身の力を振り絞ってグルグルまわす鉄の重たい球でもない。その中間ぐらいの重たさかもしれない。

重さに変わって濡れ具合でいうと、乾燥して、干からびている感覚の正反対にある、しっぽりと濡れた時代の昭和をめざした、といえよう。空気抵抗力学から生まれた表面ツルツルのN700系の「のぞみ」ではなく、長万部から別れてニセコ経由のいわゆる「山線」(海千、山千の山千ではありません。登別、苫小牧のどちらかというと平坦な太平洋沿いを走る室蘭本線、すなわち海線に対して、ひと山、ふた山越えてやっとこさ日本海側にたどり着く函館本線のことを言います)と言われ急勾配の多い山岳地帯を、黒煙を吐き出しながら弱音をはかず、ただひたすら走る、今ではもう古典となってしまった「C62」のイメージである。D52形のボイラーとC59形の足回りが組み合わされて誕生したC62はSLの完成形である。降り積もった雪の中を走る姿も、また雨で濡れた姿も美しい。ニセコを出て小樽に着く頃、西の日本海からは吹き上げられ、南の羊蹄山からは吹き降ろされた雪で濡れた3つの動輪は、更なる輝きを増している。

SL「C57」 福島県会津若松駅にて 2008年5月25日撮影

福島県指定重要文化財
「長谷部家」

内部空間の構成については、当初から、乾燥した砂漠地帯ではない、釧路湿原、上高地、あるいは奥入瀬などをもつ、日本のしっとりとした原風景がイメージの原点にあったと思う。現代の素材を使い、昭和の空間をめざしたのが、「FED」計画として進められた本作であります。

 

構造・規模  枠組壁工法2階建て
敷地面積 172.52u
建築面積 68.95u  建ぺい率 39.96%≦40.00%
延床面積 (法床) 123.19u  容積率  71.40%≦80.00%
延床面積(施工) 156.50u
設計期間 2007年8月から2008年2月
工事期間 2008月2月から2008年8月
特徴・仕様 住宅性能保証登録住宅  全室床無垢パインフローリング
1階壁珪藻土(ダイヤトーマス)  塗料オスモカラー
現場発泡断熱材(フォームライトSL)  ルーフバルコニー
造作本棚付書斎  ロフト  全窓遮断熱ペアガラス
エコキュート  ワーロン障子  ダイニング格子収納棚
アルミ製雨樋  ビルトインサイクルポート
ウォークインシューズクローク
建築工事費 2000万円台 (屋外給排水工事、上下水道申請費、照明、家具工事、土留工事含む)
建築地 茨城県 つくばみらい市
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