「和楽」の家  

  

 

「和」の感覚を楽しむと言う意味での「和楽」の家です。「和風」となると、庭との関係性の中からデザインを抽出していかなければならないし、そもそも広大な敷地の中での計画ではなかったため、「和楽」のターゲットを全て内部の空間と、ディティールに向けることに専念しました。本来、和風となるとその外観も重要なのですが、この際ばっさりとそこは切り落としました。庭はあきらめたわけです。瓦屋根、縁側も同じです。したがって内部の構成に集中したデザインの展開が図られました。


玄関を開けると突き当りまで土間空間が続きます。果てしなく続くといった感じです。土間空間の両脇は杉の引き手のある統一したデザインの障子が、より一層路地空間としての演出に効果を出しています。障子紙は破れにくいワーロン紙を採用しています。さらに通常の敷居、鴨居という納まりでなくレールで吊るハンガー式としたため、無垢の建具が多少反ったとしても影響がなく、しかも非常に軽く開け閉めできるようにしています。2階へ上がる階段の段板の4段目までは、その段板を目透かしとし、床に散りばめた玉砂利が見えたり、見えなかったりします。「はっきりさせない」「白か黒かなんともいえない」という日本文化の特質がメタフォアとして現れます。2階から降りてきたときには、ほとんど見えないようになっています。階段に上るその路地空間の天井に120センチ×40センチの小さな吹き抜けを設けたのは、土間下に装備した湿式床暖房の暖気をほんのりと2階の中ほどにあるダイニングルームへ運ぶためです。運ばれた暖気は、ダイニングルームの隣のリヴィングの天井のシーリングファンによって1階へと循環する仕掛けになっています。空気が止まると結露を誘発します。したがってこの家では結露は他人事です。断熱材も現場発泡のデミレックシーレクション500で家全体を覆っていますので長期に亘りその性能が約束されています。正面の障子を開けるとそこはパウダールーム、浴室、野球の素振りが何とかできるほどの広さのテラスへとつながっています。テラスの横は主寝室ですので、ちゃんと素振りが出来ているか窓越しに両親がチェックできるのも楽しみです。さて土間の両脇に主寝室と2つの子供部屋があるのですが、当然ながら床が1段上がっているため、わざわざ下駄を履いてトイレに、そしてお風呂に行かなくてはなりません。2階に行くのにも下駄を履かなくてはなりません。楽をしてはいけません。こうせつの「神田川」が思い出されます。さて、ここからがプラン上の大事なところです。北側の道路に対して、南側の境界が斜めになっており、南のパウダールームは(普通は北に設けるのでしょうが、既成概念に囚われない自由な発想の元で南にしています)素直に境界に沿って変形としています。その変形パウダールームに造り付けの化粧台、ドラム式洗濯機、トイレ、1618のユニットバスがうまくまとめられています。基本設計を何度となく変更した効果が一番現れたところがここの部分です。ここがこの計画のプランニング上での最大のポイントであったと思います。

 

 

階段を上がって障子を開けると、路地空間とは一味違った「和モダン」の世界が現れます。新築とはいえない古めかしさ、遠い昔からここにいるような感じ、東海道五十三次に出てくる茶屋で、とっておきの静岡産の熱いお茶をすすり、これまたとっておきの草加せんべいをかじっている雰囲気が似合いそうな素朴な空間です。縁側をあきらめたとしましたが、この素朴な空間から広いバルコニーが連続しています。ロンプルーフシート防水(FRP防水より高性能)を施したバルコニーの床には仕上材としてブラジル産イペをフローリングのように施工し縁側のイメージを醸し出しています。朝日は何にも遮られないで、さんさんとこの素朴な空間に、そして隣のキッチンに溢れこんできます。冬の低い日差しですと、ダイニング横の小上がり和室まで届きそうな勢いです。なお、勾配天井とロフト部分の高窓は掃除が大変ですので、工事中にあらかじめ光触媒をコートしてメンテナンスを不要としています。さて、キッチンに移るとそこは機能最優先で設計しています。L型キッチン、ミセスカウンター、パントリー、本棚付パソコンカウンターがミセスの動線に従って配置され小上がり和室へと続きます。すなわちキッチンが行き止まりでなく、ぐるぐる回れる楽しいプランニングになっています。床材は普通ならヒノキあたりをもってくるのでしょうが、あえてUSAオークフローリングを採用しています。この普通ならの「普通」が物事をつまらなくさせている原因であると考えますので、けして伝統を否定しているわけでなく、伝統はさしあたって「保管」していると思ってください。パウダールームの平面計画と合わせ「普通」としなかったことが、固有の和風から少し離陸したような感じです。まるで自分が始祖鳥になった気分です。付け加えるとこの住宅は外観からは「和」を楽しむ家であるとはまったく気が付かないようにデザインしています。「和」の素材は一切外に出していません。「都市住宅」の表層の中に「和モダン」の世界を包み込んでいるのです。意味論的にはダブルコードの家といえましょう。

 

 

 

構造・規模

枠組壁工法2階建て(ロフト付)

敷地面積 151.39u
建築面積 114.86u
延床面積(法床) 114.27u
延床面積(施工) 135.94u
設計期間 2005年11月から2006年5月
工事期間 2006年6月から2006年11月
特徴・仕様 住宅性能保証登録住宅  1階土間温水式蓄熱床暖房
現場発泡断熱材(シーレクション500)
  塗料オスモカラー
1階床無垢パインフローリング  2階床無垢オークフローリング
エコキュート  造作書斎  パントリー  造作本棚
ルーフバルコニー(仕上げイペ材)
  ロフト  ワーロン障子
LD勾配天井  小上がり和室
建築工事費  2000万円台(屋外給排水工事、家具工事、蓄熱式床暖房、外構、エアコン、照明含む)
建築地 千葉県 我孫子市
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